衣服/Clothing

30年計画

 長年、共に働いてくれた主人の紺やグレーのスーツがどう見ても古くなった。
なんだか伸びたような、布自体も腰がなくなって、ピカピカ光るところすらある。着てみてもらうと、しゃきっとしない。一生懸命に体重を落とした所為だけではない。
「そう、背広買い換えましょ。これ古くて、もう良くないわ。」「充分使ったし、丁度、潮時、新しくしましょうよ。」といった。お洒落で買い物好きな主人がなんと「いらない。もういらないよ。着ないから。」とぼそっと言ったことからこの話しは始まった。
 私は驚くのと悲しさで胸がつぶれそうになった。次ぎの瞬間たぶん私の目は赤く、見えない敵・老い・に向かう鬼のような顔をしていたと思う。「何を言ってるの、ライフスタイルの変わりはあっても、洋服は着るでしょ!何がどうあっても外へも出るでしょ!お人とも会うでしょ、学校へも行くでしょ、はだかで出かけるのですか!着るもののスタイルが変るかもしれないけど、要らないとはなにごと、何を考えてるの、許せない!私たちはこれからの30年計画で暮らすのよ!」と叫んでいる内に、とっさにでた30年計画と言う自分の言葉に力づけられ、気持が少し治まっていった。私の悲鳴にも似た凄さに、あっけにとられていたらしい主人もいくぶん同意しているようにみえた。しかし、情けない悲しい私の気持は全部は治まらない、「まさか貴方はこの擦り切れそうなズボンで30年過すのではないでしょうね。」ときれいにハンガーに吊るしてあったズボンまで、ボンボンと目の前でおろして見せた。「絶対にきれいにしていて下さいよ」「許せない、要らないなんて、今日から要ると思われるものは全部、全部、買いますから!」と宣言した。
 30年計画で本当に暮らそう。鬼になって、いつまでも元気で。

男の服装

 病院で会計の順番を待っているときのこと。
 あっ、たしかにあのお方。見覚えのある横顔は、年をすっかり取られていたけれども、間違いなく、かつて立派な立場にあり、新聞などで、拝見したあのお方だった。
 どうやら付き添いもなく一人のようである。それとも私の見間違いか?と思っているところへ、会計の用意ができましたとアナウンスがあり、その方がフルネームで呼ばれた。もう、間違いなし。その方はゆっくりと、やっと立ち上がり、おぼつかなく前へ進まれた。なぜか大変気の毒に思えて、注視できず、足元へ目を落とすと、靴とズボンの裾の間に靴下をはいた足首がにゅーっとでている。上に持ち上げすぎただろうズボンの裾は短く、子供のようにくるぶしがみえている。御活躍だった頃、端正な姿はいつも上等な背広が似合っていた。家族の方はいらっしゃらないのか、今日は着いてこられなかったのか、どなたか身の回りを見る方がないのか。私は本当にいやなものを見てしまった。気分が悪い。

装いについて

 デパートへ行けば、着るものについては間に合います。たくさんのブランド、品揃え、余所行きから普段着まで、びっくりするほどあります。
 ですが嫌なのは、どこから見ても年配者の公約数の中にだけある洋服を勧められること。ぐっとスポーティーなものや冒険心を満たすもの、70代だからこその変身進化できる洋服を勧めてはくれません。みなさんも、こんな経験はおありでしょう?

 私は福山へ行くと、デパートへ寄ります。デパートの大きさは巨大過ぎず、ゆったりした雰囲気が好きです。飾り方はぎらぎらせず、自分の欲しい方向のものだけに目をやれます。店員さんは何処かしらと思う頃、応対してくれます。
 私の中では、もうすでに安全圏の洋服ばかり見ていた自分にやれやれという思いが出かかってきています。そのとき、店員さんは私が試し眺めつしていた物より少し今風で、一歩進んだスタイルを何点か出してくれます。時にはまさかと思う色具合が自分に合うことを発見したりします。

 私が思うに、70代向きのコーディネーターが居たらいいのにと思います。

 愛用しているユニクロで70代向きの普段着を作ってくれれば良いですね。
フリースでジャンパースカート、長パン、半パン、上着、Tシャツ。やわらかくて、多少カラフルで、温度調節ができて、洗えて、活動的で、安くて、今風。文句なしなのですが……。

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